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あなたは楽しみを最後に取っておく派ですか?

 子供の頃、大好物を最後まで残しておいて親に叱られた記憶があります。また友達と最初に食べる派と最後に食べる派でつまらない言い合いをしたこともありました。

  まあ、好物の食べる順番くらいであれば後でも先でも大したことではありませんが、これが人生の楽しみ方であれば話は別です。真剣に考える価値のある大きな問題だと思います。

 

 人生をいつどのように楽しむべきかを考える時に、いつもある方(Aさん)のことを思い出します。

 私がキャリア2社目のときの話です。Aさんは、私が入社する前、役員だったらしいのですが、社長交代を機に閑職の部長へと降格させられました。いわゆる派閥争いに巻き込まれたようです。Aさんの新しい仕事は毎日1時間もあれば終わるような簡単な資材の発注業務だけでした。すっかりやる気をなくしたAさんは、隙を見つけては外出してそのまま帰ってしまったり、社内に居れば居たで他人の仕事を批判ばかりして、高い給料をもらっているのに働かないダメサラリーマンの典型として、周囲から白眼視されていました。

 そんなAさんは、なぜか私にだけは心を開いてくれました。きっかけはたまたま飲み会で隣になったことです。正確には誰も隣に座りたがらなかったため、新入りである私が座ることになったのです。その時Aさんは、私に過去の自慢話や現役員の悪口を延々と話し続けてました。はじめは適当に相槌を打ち聞いていたのですが、だんだん気持ちが重たくなってきたので、話題を趣味のことに切り替えました。するとその途端、Aさんの表情ががらりと変わりました。たまたま趣味が同じだったのです。

 Aさんは会社では仕事をしない怠け者のように言われていましたが、実はかなり行動派でいろいろな趣味をお持ちのようでした。退職したら一眼レフの高級機を買って一年中撮影旅行するとか、もう一度本格的にヨットをやってみたいとか、空いている子供部屋にNゲージのジオラマを作りたいとか、そんな話をうれしそうに聞かせてくれました。意外な一面を持っているAさんに少し親近感を覚えたものです。

 そんなAさんにある日突然不幸が降りかかります。定年退職を4か月後に控え、いよいよセカンドライフの準備を始めようかというときに体調の異変を覚え、急遽入院されてしまいました。診断の結果、がんが見つかったのです。そのときにはもうステージ4で手術はできなかったそうです。それから9か月後、一度も退院することなくそのまま亡くなりました。

 

 Aさんは経済的には恵まれていらっしゃいました。最終的には閑職に追いやられたとはいえ、役員を10年も勤められていたのでかなりの収入がありましたし、多額の退職金も約束されていました。また、子供はみな独立し、住宅ローンもありませんでしたので、やりがいのない仕事を無理に続ける必要はなかったはずです。 

 あれだけセカンドライフを楽しみにしていたのに、何一つもプランを実行するもなく、自宅でのんびりと自由な時間を過ごすことすらできずにこの世を去りました。ご本人の気持ちを知るすべはありませんが、もう少し楽しんでおけばと後悔されたのでないかと私には思えてなりません。

 

 刹那的に生きればいいとは思いません。でもだからといって楽しみをすべて後回しにする生き方も正しいとは思えません。ほどほどにでも真剣に「今、この瞬間を楽しむ」ことが大切だとAさんが教えてくれたような気がします。