不動産でインフレ対策という"常識"に対する疑問

 資産運用や不動産投資に関する書籍を読んでいると、「これからはインフレの時代になる可能性がある。資産の大半を現預金にしておくと実質的な価値が目減りするリスクがある」と書かれていることが多いと思います。

 まあ、ここまではよいでしょう。問題はその先からです。必ずと言っていいほど「インフレ対策として不動産投資がよい」という話になっています。(不動産を買ってほしい人が書いているから当然ですね)

 

 もちろん、不動産投資がインフレ対策にならないわけではありません。でも株式投資や外貨投資、REITへの投資などほかにも有効な策があるにもかかわらず、不動産のことしか書いていない本も少なくありません。もしこのような本を見かけたら「リスクを強調し危機感をあおり、自分の商売に誘導する」という典型的な合法的霊感商法だと思って警戒してください。

 

 この「不動産投資はインフレ対策になる」という話には、いくつか前提があります。「土地の価格が長期的には右上がり(土地神話が健在)」「インフレに合わせて賃料が上昇」「低金利で長期固定の借り入れが可能」などです。

 もし前提が正しければ、インフレが起きてもそれに合わせて賃貸収入が増え、資産価値も上昇し、負債はインフレで実質的に目減りするでしょう。インフレ対策として完璧です。

 でも今の時代、この前提は正しいといえるのでしょうか。現在は不動産価格が上昇していますが、これは土地神話が復活したわけではなく異常な低金利のおかげです。賃料もこれから空室率が急激に上昇する中、インフレと同じだけ上昇すると考えるのは楽観的過ぎます。一方の負債も、住宅ローンであれアパートローンであれほとんどの人が変動金利で借りているはずです。

 したがって本に書かれているような完璧なインフレ対策になるとは到底思えません(もちろん、タンス預金や普通預金放置プレーよりはマシかもしりませんが)。手間とリスクの割には微妙なインフレ対策にしかならないような気がします。

 

 傷に塩を塗るようなことを言って恐縮ですが、給料も増えず年金もアテにできず将来が不安だから不動産投資を始めようと考える人が、家賃はインフレと同じだけ増えると考えていること自体に矛盾を感じませんか。空室率が上昇し、給料も年金も増えないのであれば、家賃はほとんど上がらない(むしろ少しずつ下がる)と考えるのが常識ではないでしょうか。

 

 かつては不動産の大半がインフレ対策として機能しました。でも、少子高齢化、所得格差拡大という流れが止まらない中、かつての常識がそのまま通用すると考えるのはあまりにも楽観的過ぎます。

 もちろん、これからも都心部の駅近くの優良物件はインフレ対策として有効でしょう。でもそれは投資用不動産全体のごくわずかにすぎません。数少ない優良物件をプロやセミプロ、多くの富裕層と取り合いしなければならないのです。そんなこと、一般人に可能でしょうか。

 プロや富裕層に先に買われてしまい、情報すら入ってこないでしょう。もし運よく情報が入ったとしても高すぎて一般の人には購入不可能でしょう。今、回ってくる情報のほとんどすべて、よくて微妙な物件、多くはクソ物件でしょう。そんな物件を掴んだらインフレ対策どころか、塗炭の苦しみを味わうだけかもしれません。

 

 今の経済環境や不動産市場の構造を考えると、不動産でインフレ対策というのは、多くの人にとって不向きであるというのが私の意見です。耳障りの良い”常識”は疑ってかかるべきだと思います。